漫画ゲームの萌えの2次創作置き場です。
SUNNY SNOW
ユフィ、柔らかい冬の日の一コマ。
 真っ白な霧の中に、アタシはいた。
 
 周りを見回してみる。でも何も見えない。
 
 アタシは急に寂しくなって、一言呟いた。
 

『ヴィンセント・・・』
 
 この名前には、聞き覚えがあった。
 
 それを思い出そうとしても、なぜだか思い出せない。
 
 なんだか頭がくらくらする。
 
 考えるだけでむなしくなってきた。
 
 もう、何も考えない・・・。
 
 ふと、何か聞こえた。
 
 その言葉に、アタシは後ろに振り向く。
 

『ユフィ』
 
 そこには、長身の男が立っていた。
 
 長い黒髪に赤いバンダナ。黒い服に赤いマント。
 
 金色に輝くガントレットが、アタシの頬を優しくなでる。
 
 そっと引き寄せられ、アタシは赤と黒の空間に引き込まれた。
 
 アタシは顔を上げる。
 
 その赤い瞳が、少しずつアタシの瞳に近づいてきて。
 
 そして、闇に包まれた。




「うー・・・・・・むー・・・」
 まぶし・・・。
 反射的に顔を逸らす。
 うー・・・あったかーい・・・。
 ふかふか毛布が気持ちいい・・・。
 外は寒いんだろうなぁ・・・。
 あんまり出たくないなぁ・・・。

「・・・・・・起きろ」
 誰かの声が聞こえた。

「うーん・・・」
 アタシは毛布にくるまる。

「・・・・・・おい」
 体が揺すられる。

「・・・おい、起きろ。もう朝だぞ」
 ちょっと怒りがこもったような声になる。

「うー・・・?」
 アタシはのそっと起きあがる。

「うひっ!寒いっ!!」
 一気に目が覚めたアタシは、もう一度毛布にくるまろうとした。

「・・・こら、ユフィ」
 と、毛布をはがされる。

「あー!何すんのよヴィンセント!!」
 声の主、ヴィンセントを見上げ、アタシはその手の毛布を奪おうとする。

「お前な・・・」
 余り変化のない顔に、少しだけあきれているような表情が浮かんだ。

「・・・今日中には出るんだぞ」
 アタシはぶーっ、と頬を膨らます。

「だあって寒いんだもん!」

「・・・そんな格好で寝るからだ」
 ヴィンセントはアタシの服を指さす。
 ・・・まあ、袖のないへそだしタートルネックに、短パンだもんね・・・。

「わかったよ!起きればいいんでしょ、起きれば」
 アタシはぬくぬくベッドから起きて、大きくのびをした。

「う・・・うーん・・・」
 のびて、アタシは身震いする。
 横に置いてあったルーズソックスをはき、ソックタッチをつける。
 それから、いつもの靴を履いた。

「やっぱ寒いよう・・・」
 肩を押さえ、横のヴィンセントを見上げる。
 いつのも格好。
 赤いバンダナに赤いマント。
 黒い髪が無造作に流れ落ちている。
 赤い切れ長の瞳。整った顔立ち。

その瞳がアタシを映していた。

「ねえ、ご飯食べたら、服買いに行くからついてきてよ」
 
 アタシはヴィンセントが好きらしい。
 ということに気がついたのは、そう前のことではなかった。
 きっかけも原因も全然覚えがないけど、気がついたら好きになっていた。
 ・・・リミットがかっこいい、なんて思えるから・・・(特にガリアンビーストとカオス)。
 でも、別にこの気持ちをヴィンセントに伝える気なんて全くない。
 アタシには全世界のマテリアを集める!という使命があるんだから。
 二十数年前に体を改造されて、それから年をとらなくなって、ずっと悪夢にうなされていたヴィンセント。
 アタシにはよくわかんない罪を抱えて、それを償うために苦しみながら生きて、ずっと一人の女性だけを想い続けてる。
 こんな中に、アタシが入り込めるはずがない。
 ただ、今一緒に旅して、一緒に戦って、一緒に時を過ごす。
 それだけでアタシは満足している。
 ほしい物は手に入れなきゃ仕方ない性格なのに、それだけはなんだか手に入れたいとは思わない。
 だから、絶対言ったりしない。
 アタシが辛いだけだから。
 
 アタシは無理矢理ヴィンセントを連れて雑貨屋に行った。

「うーん、緑がいいかな・・・それとも白がいいかな・・・」
 アタシは鏡の前でセーターを交互に入れ替える。

「ねぇヴィンセント、どっちがいい?」
 アタシは後ろのヴィンセントの方に向き直る。

「・・・私に聞くな」
 少し困ったような顔をするヴィンセント。

「ちぇ。ま、いいや」
 両方買おうっと。

「おじさん、これと、これと、これ二着ね」
 アタシはカウンターに青いジーンズと、白いマフラー。それにさっきのセーターを置いた。

「えーっと・・・4400ギルだよ」

「おじさん、ちょっとまけてよー。ねぇ」
 アタシは軽くウインクする。

「うーん・・・お前さん可愛いし、3800にしちゃおう」

「やった!ありがとおじさん!」
 アタシは手を打ち、代金を払う。
 おじさんは服を大きな紙袋に詰めて、アタシに渡してくれた。

「・・・やっと終わったか・・・」
 軽く肩を落とすヴィンセント。

「何よ。一時間ぐらいいいじゃない」
 ふう、とため息をつくヴィンセント。

「さーて、宿に戻って出る準備をしようっと」
 アタシは意気揚々と外に出た。
 と、

「あ、雪だ」
 音もなく落ちていく白い雪。
 アタシは空を見上げる。

「あれ?晴れてる」
 冬のさわやかな日差しが、アタシとヴィンセントを照らす。
 あたしたちはとりあえず宿に向かって歩き出す。

「変だねー。晴れてるのに雪が降ってる」
 紙袋を抱えて、空を見ながらアタシは呟く。

「これも狐の嫁入りって言うのかな?」

「・・・何だそれは」
 アタシの言葉に、珍しくヴィンセントが聞いてくる。

「知らない?
 ウータイではね、晴れてるのに雨が降ってる時を「狐の嫁入り」って言うの」

「・・・何故だ?」

「うーん・・・昔聞いた話だからねー・・・。
 狐が嫁に行くときは、晴れているのに雨が降るの。それは狐たちが結婚を祝っているんだって」

「ふむ・・・」
 まじめな表情でうなずくヴィンセント。

「あのね、んなに真剣にならないでよ。聞いた話なんだから」
 横にいるヴィンセントの顔を見上げる。

「狸の婿入りだったりしてね」
 アタシの言葉にヴィンセントは軽く笑う。
 この優しい笑顔が好き。さっきの考え込んでいる表情が好き。
 あんまり表情を変えないから、よけい好きなのかもしれない。
 アタシはつい、見とれてしまった。

「・・・どうした?」
 ヴィンセントが不思議そうに聞く。
 心臓がはねる。

「い、いや、べつに・・・」
 かなり変な返事をしてしまって、アタシはあわてて顔を逸らす。
 そして紙袋の中からマフラーを出す。
 寒いから、巻こうと思ったけど・・・。

「巻けない・・・」
 片手がふさがってるから、当たり前だな。
 アタシがマフラーと悪戦苦闘していると、

「・・・ユフィ」
 いきなり名前を呼ばれ、アタシははっとしてヴィンセントの方を見る。
 あたしたちは立ち止まった。
 ヴィンセントは何も言わず、アタシにマフラーを巻いてくれた。
 一瞬、何も考えられなくなった。
 たぶん、顔が赤い。
 心臓がすごくドキドキしてる。

「あー・・・ありがと・・・」
 やっとの思いで言葉を絞り出すと、あたしたちはまた歩き出した。
 体が熱いのは、マフラーのせいじゃない。
 アタシは紙袋に軽く顔を埋めた。
 なんで、こんなにも、ヴィンセントは優しいんだろう。
 どうして、こんなにも、アタシは辛いんだろう。
 だめだなぁ、こんなんじゃ。
 しばらく、何も言わず歩く。
 晴れ雪が、アタシの頬に当たる。
 ふと、朝見た夢を思い出す。
 白い霧の中、アタシはヴィンセントと・・・。
 アタシは頭を振る。
 夢は夢。夢で終わらせるの。
 いつの間にか、宿に着いていた。
 中にはいると、そこにはシドとケット・シーがいた。

「よう、お二人さん」
 からかうような口調のシド。

「買い物ですか?」
 本体は神羅の人間らしいけど、とっても楽しいケット・シー。
 すぐにアタシはいつものテンションに戻る。

「まーね。寒いからいろいろと」

「そのマフラー、いいじゃねぇか」
 シドがタバコを吹かしながら言う。

「とーぜーん!アタシが選んだんだから」
 シドはにまにまと笑う。

「いいなーケット・シーは。本体はビルの中でしょ?」

「言わんといてくださいな。でもボクがおるとこ、すきま風が吹き込んで・・・」
 あたしたちがそんな話をしていると、ヴィンセントは1人で2階へ上がってしまった。

「どしたんだ?やっこさん」

「いつもの事じゃない。アタシ、着替えてくるね」
 アタシはシドにそう言って、2階へ上がった。
 部屋にはいると、ヴィンセントの姿はなかった。
 アタシはさっきの服を取り出す。
 ちょっと名残惜しかったけど、マフラーをとってそれもベッドに並べる。
 先にズボンをはいて、アタシは少し迷う。
 どっち着ようかな・・・。
 アタシはベッドにセーターを並べる。

「どちらにしようかな・・・天の神様の言うとおり・・・」
 言葉にあわせて、指を降る。
 と、アタシは緑色のセーターを指さした。

「んじゃ、こっち」
 アタシはタートルネックを脱いでセーターに着替える。
 あー、暖かい。
 でも袖がちょっと長い。
 アタシは鏡の前で一回転してみる。
 さっすがアタシ。似合うじゃん。
 ほれぼれと鏡の中のアタシを見ていると、鏡の端にヴィンセントの姿が映った。

「うきゃ!」
 びっくりして振り向く。

「どっ!どこにいたのよヴィンセント!?」

「・・・ベランダにいたが」
 普段と同じ、落ち着いた表情で、ヴィンセントはアタシを見る。
 はっ!ということは!

「みっ!見たなぁ!!」
 アタシは顔を腕で覆い、思わず後ずさりする。
 と、何かに躓いた。

「のわっちょ!!」
 ワケわかんない叫び声をあげて、あたしは後ろに倒れる。
 ぽふ、という感触が、アタシのお尻に当たった。
 ・・・後ろはベッドだったのね。

「何を・・・?」
 ヴィンセントは頭をかく。

「何って・・・アタシここで着替えてたでしょうが!」
 アタシは真っ赤になって怒鳴る。
 ヴィンセントはゆっくりと移動して、アタシの横に座った。

「私は・・・ずっと外を見ていた。ユフィの着替えなんか見ていない」
 妙に冷静に言うヴィンセント。

「なんかって何よ!どーせメリハリのない体ですよーだ!」
 アタシはそっぽを向く。

「そんなことは言っていないが・・・」
 ヴィンセントはいつもの調子で言う。

「あのねぇ!大体・・・」
 アタシはヴィンセントの方に体を向ける。
 と、言葉に詰まった。
 ただ、ヴィンセントがアタシの方を見てるだけのに。
 言いかけた言葉を忘れてしまうくらい、それは綺麗な顔だった。
 その赤い瞳が、アタシだけを映している。
 金色のガントレットが、アタシの頬を優しくなでる。
 そしてそっと引き寄せられ、アタシは赤と黒の空間に引き込まれた。
 アタシは顔を上げる。
 ヴィンセントの瞳が、少しずつアタシの瞳に近づいてきて。
 そっと、左手を握られた。
 アタシは目を見開く。
 すぐ前には、ヴィンセントの瞳。
 その視線に耐えられなくて、アタシは目を閉じる。
 握られた手を、絡ませる。
 もう一方の手を、そっと背中に回す。
 熱い。
 胸が痛い。
 苦しい。
 喉の奥が苦い。
 何も、考えられなくなっていた。
 不意にはなされ、アタシはヴィンセントの胸に顔を埋める。
 鼓動が早くなる。
 なんだか、変な気持ちになる。
 このまま眠ってしまいそうな。そんな感覚が体を支配する。
 どれくらい時間が過ぎただろう。
 アタシははっと正気に返った。
 どんっ!とヴィンセントを押し、アタシは立ち上がる。
 口を押さえ、ヴィンセントを見る。
 ヴィンセントはいつもの表情でアタシを見る。
 アタシは2、3歩後ずさりする。
 たぶん、今アタシの顔は真っ赤になってるだろう。
 もう何がなんだかわからなくなって、アタシは部屋を飛び出た。
 そのまま宿からも飛び出す。
 そのとき、誰かに呼ばれたような気がしたが、そんなことはかまわず走った。
 
 アタシは村はずれの林の中で立ち止まった。
 大きく息をつきながら、口を押さえる。
 横の木の幹に手をつき、息を整える。
 何で、何で?!
 だって、さっきのどう考えたってキスじゃない!?
 と、いきなりその感覚がよみがえる。
 アタシはまた真っ赤になる。
 すごく熱かった。
 ヴィンセントの体温が、そのまま伝わってきた。
 泣きたくなるくらい、胸が締めつけられて、苦しかった。
 アタシは横の木にもたれかかる。
 涙が後から後からあふれてきた。
 ねぇ、どうしてヴィンセント。
 どうして、アタシなんかにキスしたの・・・・・・?
 
 どれくらい時間が過ぎたんだろう。
 太陽は、アタシの頭の真上に来ていた。
 いつの間にか涙は止まって、ただうずくまっていた。
 体が少し冷えている。
 こんなんじゃ、今日中に出発できないな・・・。
 それか、みんな先に行っちゃったかな。

「はーうー・・・」
 アタシは大きくため息をついた。
 やっとテンションが下がった。
 こんなの、いつものアタシじゃない。
 それもこれも、ヴィンセントのせいだ。
 アタシがこんなに辛いのも、一人でここにいるのも、変になっちゃうのも、ぜーんぶヴィンセントのせいなんだから!!
 ・・・人のせいにしてもはじまんないか。
 晴れ雪は、まだ降っている。
 気まぐれな天気。
 あいつの心も、きっと気まぐれだ。
 でないと、こんな事になるわけない。
 アタシがどんな思いで、今まで一緒にいたと思ってんのよ。
 今までの事なんて、全部帳消しになっちゃうし。
 ふつう、恋っていったら、会う度にドキドキして、一緒にいると楽しくて、こんな辛くなったりするはずない。
 小さいときは、そうだったような気がする。
 近所の男の子と、遊んでいるだけで楽しかった。
 辛いなんて思わなかった。
 ・・・やっぱり変だ。

「はうー・・・・・・」
 アタシはもう一度ため息をつく。
 これからどうしよっか・・・。
 おなか空いた・・・。
 お昼、食べてない。
 あーあ。
 アタシは顔を膝に埋める。

「!」
 今、何か聞こえたような気がした。
 アタシは耳を澄ます。
 一定のリズムを持ったその音は、誰かが雪をふむ音だった。
 誰かくる!
 アタシは急いで立ち上がる。
 と、
 誰かが、木陰から出てきた。
 見覚えのある顔。

「ヴィンセント・・・・・・・・・」
 思わず、アタシはそう呟いた。

「・・・ここにいたか」
 ヴィンセントに、安堵の表情が浮かぶ。
 アタシは口をぱくぱくさせながら、後ろの幹にもたれかかる。

「・・・昼から出発するんだ。行こう」
 いつもと変わらない、優しい声。
 ヴィンセントは一歩アタシに近づいた。
 顔が熱い。
 のどの奥が苦い。

「・・・っ」
 言葉が詰まった。

「バカっ!!」
 アタシは無理矢理声を絞り出した。

「何であんな事したのよ?!アタシ、どうすればいいのよ?!絶対そんなことあるはずないって、押さえてたアタシはなんなのよ?!バカバカバカ!!」
 言いたいことを全部吐き出してから、アタシは気づいた。
 ・・・好きって言ってんのと同じ事じゃん。
 あああ!!アタシのバカぁ!!
 お互い、何もしゃべらない。
 永遠に続きそうな沈黙が、あたりを包む。
 不意に、ヴィンセントが動いた。
 アタシの一歩手前で立ち止まるヴィンセント。

「ユフィ」
 びくっ、と体がふるえた。
 ヴィンセントはアタシを優しく見下ろす。

「・・・さっきは、すまなかった」
 その言葉には、いつもとは違う何かが含まれていた。

「・・・ユフィの気持ちも何も考えず、あんな事をしてしまって」
 言って、ヴィンセントは顔を軽く伏せた。
 いつもより言葉数が多い。
 アタシはただ、言葉に聞き入っていた。

「・・・それでも」
 言って、ヴィンセントは言葉を切る。
 それでもって、なに?!ねぇ!それでもって!?
 アタシが心のなかでそう叫んでいる事も知らず、ヴィンセントは黙ったまま。
 ヴィンセントが目を開いた。
 赤い瞳。
 まるで召喚マテリアみたいな、でも冷たい赤。
 あの瞳の奥には、何があるんだろう?
 アタシは、ただ呆然と立ちつくしていた。

「私のことを・・・嫌わないでほしい・・・」
 最後の方は、消えそうだった。
 嘘だ。
 あのヴィンセントが、こんな事言うなんて。
 ヴィンセントはいつも無口で、無表情で、なに考えてんだかわかんなくて・・・。
 晴れ雪が、降る。
 二人を包んで。
 アタシが何もいえずにいると、

「・・・・・・ユフィ、お前は、私のこの手を、好きだといってくれたな・・・」
 ヴィンセントは左腕のガントレットを押さえる。
 ヴィンセントの左腕は、すでに人間の物じゃない。
 暗褐色の硬い皮膚。浮き出た血管。不自然に曲がった関節。鋭い爪。
 それは、狂乱の科学者が施した、呪いのような物。

「誰もが、いや、自分でさえも忌み嫌うこの体を、お前だけは怖がらなかった」
 うん、そうだよ。
 今だって怖くなんかない。
 だって、触ったとき、すごくあったかかったから。
 ちゃんと生きてるんだって、解ったから。

「アタシは・・・」
 言葉が続かない。
 何か言いたいのに、何か言わなくちゃいけないのに。
 そんなアタシを見て、ヴィンセントは優しく微笑んだ。
 ヴィンセントが次に言おうとしてることが、何となく解った。

「・・・お前まで私を嫌うようになれば・・・・・・」
 言って、目を伏せるヴィンセント。

「ユフィ・・・」
 ヴィンセントの声が、風にながれる。

「私は・・・」

「ストップ!!」
 ヴィンセントの言葉を、アタシは遮った。

「その続きは聞きたくない」
 アタシは手を前に出し、遮るポーズした。
 何を言われても、アタシは普通でいられなくなる。

「ユフィ・・・?」

「今から、アタシは元のアタシに戻るの。マテリア・ハンター、ユフィ・キサラギに」
 アタシは親指で自分の胸を指す。

「何が言いたいかは聞かないけど」
 今度はヴィンセントを指さす。

「ヴィンセント、あんたも無口で無表情な元タークス、ヴィンセント・ヴァレンタインに戻んの」
 アタシの言葉に目をぱちくりするヴィンセント。

「さっきのことも、今のことも、みーんな後回し」
 アタシは腕を組み、目をとじ軽く下を向く。

「そのかわり全部、何もかも終わったら、この続きをする。これでいいでしょ?」
 言ってアタシは歩き出す。
 そうだよ、まだアタシにはやることがいっぱいあるんだ。
 全部終わるまで、他のことはできない。

「おい、ユフィ」
 あわてて後からついてくるヴィンセント。
 アタシは後ろに振り返りそうになったが、それを何とかこらえる。
 いきなり、アタシの首に暖かいなにかが当たった。

「忘れ物だ」
 あ・・・さっき買ったマフラー・・・。
 ・・・いつもの、無口で優しいヴィンセントだ。

「フン、お節介」
 アタシはマフラーをきちんと首に巻く。

「・・・ありがとね、ヴィンセント」
 アタシはいつもの笑顔で、ヴィンセントに笑いかけた。
 今、アタシはヴィンセントが好きだ。
 それだけでいい。他はなんにもいらない。
 苦しいことも、辛いことも、みーんなまとめて面倒見ましょう。
 ね、ヴィンセント。
 
 晴れ雪。
 空が曇る前に、すべてを白く包み込む、小さな冷たい太陽。
 そして、ひとときだけ夢を見させてくれる、空からの贈り物。
 
 Fin
 
 
少女漫画風味なヴィンユフィ。初作品。
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